Sofitel Vienna(Vienna,Austria)
ソフィテル・ウィーン(オーストリア、ウィーン)
Design : Jean Nouvel
設計:ジャン・ヌーヴェル
ウィーンのイコン的ランドマーク・ホテル
フランスが生んだ世界のスーパースター・アーキテクト、ジャン・ヌーヴェル。彼が設計したホテルには、ボルドーの「ホテル・サン・ジェイムズ」と、スイス・ルッツェルンの「ザ・ホテル」がある。いずれも創意工夫を凝らしたユニークな作品として知られているが、ここに紹介する「ソフィテル・ウィーン」も話題に事欠かない。

去る4月下旬、建築ツアーでプラハから深夜に「ソフィテル」に着いた時、エントランス・キャノピーの天井がカラフルでこうこうと輝いているので唖然とした。近づくと色鮮やかな絵が描かれ、バックライトで明るく光っているのだ。しかもそれが内部のロビーにも及んでいる。

ヌーヴェルがホテルの天井にヴィジュアルなイメージをあしらったのは、「ザ・ホテル」の客室だった。だが「ソフィテル」では、パブリックなロビーやキャノピー、4階会議室フロアの外部天井、それと最上階の18階にある「ル・ロフト」と呼ばれるレストランだ。

レストランは全天井面に、ロビーと同種の絵画が展開されている。明るく華麗な雰囲気は、かつての王宮などで催された豪華絢爛なパーティの現代版と言えそうだ。このアートは、スイスの女流ビデオ・アーティスト、ピロッティ・リストの作品である。

“ル・ロフト”は中央に半階分ほど高くなったバー・エリアがあり、その周囲の窓側にそってレストランのテーブルが配されている。無柱のフルハイトの開口部からは、「サント・シュテファン寺院」を中央に捉えた素晴らしいウィーンの景色が満喫できる。

「ソフィテル」はドナウ川のシュヴェーデン橋のたもとに立つ総ガラス張りの5つ星ホテル。750㎡もあるスパ・エリアや、ミニ・バーのジュースやミネラル・ウォーターなどが無料というサービスも素晴らしいが、さらに客室に装備されたヌーヴェルのアイディアが建築フリークの心をくすぐる。

客室に入るとまず最初に気がつくのが、ベッドの位置が普通のホテルと違って、窓側にピッタリと寄せられているのだ。これはウィーンの美しい夜景を見て就寝し、爽やかな朝景色で気持よく目覚めようという魂胆らしい。

となると窓の仕掛けが問題になる。ヌーヴェルは、カーテンなしの窓を考案した。ただしこれはツィンの部屋だけらしい。窓面が十字形に交差したサッシュで4分割されている。各々の面には引き戸、引き上げ戸、引き下げ戸ともいうべき木製のドアがついている。これで自在に光量をアジャストできるのだ。

次に気がつくのはバスタブの位置だ。洗面エリアと居間部分を仕切るドアを全部開放すると、バスタブが部屋のほぼ中心に顔を出すようになる。したがって入浴しながら、部屋のソファやベッドにいる人とも身近に話すことができる。

バスタブのトップは幅がかなりあるので、ドリンクや洗面用具を置くにも便利だ。ここでの洗面用のソープやリンスなどは全てエルメスの製品を使用するという豪華さ。僕もお土産として数点頂いてきた。

その他にも客室には数々のアイディアが光っている。デイ・ベッド付きのソファ・セットが、囲む感じで居心地のよいコーナー部を形成している。ライティング用のデスクはキャンティレバーで突出。合わせて椅子も座面がキャンティレバーとなっている。洗面室のゴミ入れは、シンク下の扉を開けると、扉の背に付いているといった具合だ。

「ソフィテル・ウィーン」はタボーア通りを挟んで、向かいにハンス・ホラインが設計した「ジュネラリ・タワー」が立ち、ほぼ同じ高さで対話をしている印象だ。182室を擁するホテルは眼下にドナウ川を眺め、サント・シュテファン寺院を徒歩圏にもつ至便の地にある。ウィーンでのイコン的ランドマーク・ホテルと呼ばれる由縁である。

 
図面
 
建築家
   


©Gaston Bergere

■略歴

ジャン・ヌーヴェル
1945年8月12日 フランス、フュメル生まれ
1967-70年 クロード・パランとポール・ヴィリリオの助手
1970年 事務所設立
1972年 エコール・デ・ボザール卒業
1983年 芸術文化功労賞、フランス建築アカデミー銀メダル
1987年 フランス建築グランプリ、アガ・カーン賞、エケール・ダルジャン賞
1991年 フランス建築研究所副所長
1993年 AIA名誉会員
1995年 RIBA名誉会員
1998年 フランス建築アカデミー・ゴールドメダル
2000年 ヴェニス・ビエンナーレ金獅子賞
2001年 RIBAゴールドメダル、高松宮殿下記念世界文化賞
2002年 レジョン・ドヌール勲章
2006年 アーノルド・ブルンナー記念建築賞
2008年 プリツカー賞


■代表作

代表作に、ネモージュス集合住宅、アラブ世界研究所、リヨン・オペラハウス改修、カルティエ財団、ギャラリー・ラファイエット、ホテル・サン・ジェイムズ、ルツェルン文化会議センター、ザ・ホテル、電通本社ビル、ガスリー・シアター、レイナ・ソフィア・アート・センター増築、アグバール・タワー、ケ・ブランリー美術館、マーサー40集合住宅、コペンハーゲン・シンフォニー・ホール、53番街集合住宅、ソフィテル・ウィーン、ワン・ニュー・チェンジなど多数。

 

Photos : Courtesy of Synectics / Materials:Courtesy of AJN