海と波のミュージアム(フランス、ビアリッツ)
Design : Steven Holl
設計:スティーヴン・ホール 海浜に立つアナロジカル・ボールダー |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||
建物にはフランス語の建物名がついており、「シテ・ド・ロセアン・エ・デュ・スュルフ」と発音するが、文字通りの意味は「海と波の都市」。機能的には博物館なので、「海と波のミュージアム」が妥当なタイトルだろう。建物は海と波の研究をし、それらが人間のレンジャー、科学、エコロジーに果たす役割をも探究する施設である。
スティーヴン・ホールは、2005年に開催された国際コンペで、エンリック・ミラーレス+ベネデッタ・タグリアブエ、ブロシェット・ラフス・プエヨ、バーナード・チュミ、ジャン・ミッシェル・ウィルモットらを一蹴してこのプロジェクトを勝ち取った。 敷地はフランスのビアリッツ。ビスケー湾に面するフランスとスペインの国境の町ビアリッツは、マリン・スポーツの盛んなリゾート地として有名だ。建物は海沿いの広さ35,000㎡の海浜風景の中にあり、建築とランドスケープをインテグレートさせる試みが実施された。 スティーヴン・ホールが考えた空間コンセプトは、“アンダー・ザ・スカイ、アンダー・ザ・シー”(空の下、海の下)。まず“空の下”にある凹面部分は、メインとなる外部プラザ全体のエッジ部分が、外側に向けてせり上がって凹面状態となっている。“海の広場”と呼ばれるここは、空と海に開け、遥かな彼方に水平線を遠望。また凸面となった構造的な天井が、内部の“海の下”展示スペースの天井を構成している。 2棟の“ガラス・ボールダー”(ガラスの岩の意)はレストランやサーファーのキオスクを内包し、中央アウトドア・スペース(パブリック・プラザ)を活性化させている。さらにこのガラス張りの2棟は、遠方のビーチにあるふたつのボールダーに、アナロジカルに呼応する。 建物の南西側コーナーは、せり上がる斜面にスケート・プールをもつサーファーたちの溜り場スペースだ。その下側にある1階のオープン・ポーチは、建物内部のオーディトリアムや展示スペースへと通じている。この屋根で覆われたエリアは、アウトドア活動である集会やイベントなどのシェルター空間となっている。 「海と波のミュージアム」の庭、すなわちパブリック・プラザは、建築とランドスケープの融合を意図したもので、建物自身を海の水平線へと連続させている。デザイン・コンセプトと敷地のトポグラフィを完璧にインテグレートさせることで、建物にユニークな性格が付与された。 パブリック・プラザの材料は、ポルトガル産の石と野草で舗装したもので、敷き詰められた石の間に雑草がチョボチョボと生えている様は、ホールらしい自然への志向が感じられて好感だ。凹面状のガーデン(パブリック・プラザ)は、海浜ランドスケープの中を海へ向けて長く延びる。 ガラス張りの建物は内部を白色で統一され、日中は海浜のまばゆい光に満たされる。逆に夜間は、白亜の内部からの光が外部へと流れ、建物全体が光源のごとく輝き出す。それは都市照明の少ない ビアリッツのこのエリアでは、深いブルーの夜空を背景にしたきらめく宝石のようだ。 敷地のランドスケープ・デザインが凹面形となっているのは、波のうねりを参照してのことだろうし、海岸の波打ち際に立つふたつのボールダーを視覚的にとらえたホールは、それらをアナロジカルなヒントとして建築に取り込んだ。「海と波のミュージアム」は、国際コンペの巧者スティーヴン・ホールの、冴えたコンペ・コンセプトのつくり方を見せつけてくれた作品である。
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||
|