カープ・スキル海洋&漂着物博物館(オランダ、テクセル島)
Design : Mecanoo
設計:メカノー オランダの栄華を宿したヴァナキュラーな漂着物展示空間 |
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オランダのデルフトに拠点をもつメカノーは、イギリスのザハ・ハディド同様、女性建築家がリーダーシップをとる建築家集団として世界的な存在だ。主宰者のフランシーヌ・ホウベン女史を、昨年日本に招待して講演してもらったが、数々のプロジェクトを見て、やはり女性的な作風を感じさせる作品がいくつかあったのを記憶している。
ここに紹介する「カープ・スキル海洋&漂着物博物館」は、それと同様女性的な繊細さを感じさせる作品だ。建物全体を覆う木製の細い繊細な縦形格子によるストライプ・パターンが、ソフトで華奢なイメージを醸している。 オランダ北部の北海に浮かぶ連鎖状の列島は、西フリジア諸島と呼ばれる。その中のワッデン諸島の最大のものがテクセル島だ。メカノー設計の「カープ・スキル」は、この島に完成した一種の海洋博物館で、島々に漂着した漂流物や難破船などを展示する変わった博物館だ。 このテクセル島には輝かしい歴史がある。17・18世紀にあの有名な世界初の株式会社といわれたオランダ東インド会社が、極東方面へと出発する艦隊の停泊港として使用していたのだ。 船団は食料や水を積み込み、抜錨するために良風を待っている間、家族が船員に会いに来たりしていた。また多くの画家が船団の絵を描きに来島したという。そんなかつての生活を展示した博物館に来ると、人々は昔日のオランダの黄金時代にタイム・スリップできるという。 そうした今となってはなくなったヴァナキュラーなリサイクルの伝統を、具体的な建築作品として甦らせたのが「カープ・スキル」だ。そのメイン・ファサードの屋根は、4つの切妻型が戯れているような形態をしている。これらは近隣住宅群の屋根のリズミカルな形に呼応したもので、海側からダイク(防波堤)越しに見ると、波形にも酷似している。 建物は延床面積1,200㎡とスケール的には小さな博物館だが、展示ギャラリー群、カフェ、オフィスを内包。展示の目玉は、長さ18メートル、深さ4メートルもある「リード・ヴァン・テクセル号」の模型で、そのほかワッデン島沖合いに停泊している多数の船の印象的なスペクタルだ。 ファサードの縦格子の古材は、展示されているミュージアム・コレクションと同様、新しい生命を与えられている。内部ではこれらの格子越しに魅力的な運河風景が流入して来るし、さらに北オランダの美しい空がミュージアム・カフェに集う人たちに降りかかってくる。 1階にあるエントランスとカフェは、地下にある「リード・ヴァン・テクセル号」の世界と、2階にある海洋考古学の世界との間に介在する自然の境界領域となっている。ふたつの世界のコントラストは、光と空間の違いによってさらに強化される。地下ではプロジェクターの展示が、神秘的な雰囲気の中で光を放つ。 2階では高い切妻天井の空間が細く繊細な光のストライプ・パターンに染まり、透明なケースに入った展示物が宙に浮遊するかのように見える。来館者はリニアな開口部から、博物館の敷地やオウデスチルト村の素晴らしいルーフスケープを堪能することができるのだ。
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