エンツォ・フェラーリ・ミュージアム(イタリア、モデナ)
Design : Jan Kaplicky(Future Systems) & Andrea Morgante(Shiro Studio)
設計:ヤン・カプリッキー(フューチャー・システムズ)&アンドレア・モルガンテ(シロ・スタジオ) 自動車美学をベースにしたミュージアム |
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イタリアのモデナは、建築的には故アルド・ロッシの巨大な「サンカタルド墓地」で知られている。そのモデナがレーシング・カーの雄、フェラーリ発祥の地であるとは知らなかった。しかもモデナ・イエローの色が、フェラーリ・カラーでもあるのだ。というわけでご覧の通り、建物は鮮やかな黄色というわけだ。
イギリスのフューチャー・システムズを主宰するヤン・カプリッキーが、2009年に夭折したのは世界の建築界にとって大きな痛手だった。フューチャー・システムズは分解したが、彼が生前コンペに勝利し、設計を進めていた「エンツォ・フェラーリ・ミュージアム」が、同社のスタッフだったアンドレア・モルガンテ(現シロ・スタジオ主宰)が引き継いで完成させた。 建物は世界のスポーツ・カーやレーシング・カーの代名詞、フェラーリの博物館。敷地はフェラーリの創業者エンツォ・フェラーリの生家のある場所で、彼の父が1830年代に建てた実際の生家は、モルガンテのデザインによって、付属の展示スペース&ワークショップとなった。新しいミュージアム棟は、両手を広げてこの旧家の展示棟を迎えるような仕草が好感だ。 カプリッキーのオリジナル・デザインは、既存の歴史的コンテクストに対し敏感に反応し、最新の建設&エネルギー技術を採用。さらにショーケースにしようとするフェラーリ車の材料・言語・精神を反映させている。 3,300㎡の広さをもつ屋根面は、2重カーブをもつアルミ製で、このような広さとデザインでアルミが屋根に使用されたのは、初めてといわれている。この屋根の施工は、オーガニックな彫刻的造形と防水技術に秀でた船大工と組んだことにより、理想的なものになった。さらにクラッディングのスペシャリストも加わり、ホゾとホゾ穴をはめ合わせる本ザネ加工によって、アルミ・シートをつなぎ合わせるのも完璧になった。 ミュージアム棟は高さ12mと押さえ、旧棟を改造した展示&ワークショップ棟と同じ高さにしている。さらに内部のヴォリュームを地下レベルへと拡張し、主展示スペースの半分を地下レベルに収容している。このためイタリアでは初めて、地熱を利用して冷暖房をする建物になった。 建物ファサードはカーブしたガラス張りで、内側に向けて12.5度の傾斜をもっている。ここのガラス板は、プレテンションのスティール・ケーブルで支持され、40トンの荷重に堪えるという。これらのガラス板とケーブルによるファサード構成は、最大の機能性を保持しつつ、よりワイドな透明性を得ている。 ガラス張りのエントランスを入ると、前面には遮るもののない巨大な空間が展開する。広くオープンで白い空間は、壁面と床がシームレスにつながった一体のつくり。屋根越しの自然光は、半透明のメンブレインによって均一に拡散され、ソフトな光を展示空間に落としている。 緩やかに下降する斜面に、カーキチには垂涎のフェラーリ・カーが、最高21台まで展示される。常に未来を指向したヤン・カプリッキーの遺作は、モデナの静かな半市街地的な田園風景の中に、艶やかなイエローの姿態を静かに横たえている。
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