Pavilion 21 MINI Opera Space (Munich, Germany)
パビリオン21ミニ・オペラ・スペース(ドイツ、ミュンヘン)
Design : Wolf D.Prix (Coop Himmelblau)
設計:ウルフ D.プリックス(コープ・ヒンメルブラウ)
超先鋭的サウンドスケーピング
近年富に巨大スケールのプロジェクトを次々に完成させ、かつての寡作時代から長足の進歩をしてきたコープ・ヒンメルブラウ。「フロニンゲン美術館」「UFAシネマ・センター」「ガゾメーター」「アクロン美術館」「BMWヴェルト」などのデコンストラヴィスティックな作風で、世界の建築界を席巻しつつある。

コープの「パビリオン21ミニ・オペラ・スペース」は、ミュンヘンの街角に完成した300席の小規模オペラ・スペース。バイエルン地方のオペラを上演する実験的小劇場だ。建物は解体・移送・再建を繰り返し移動するモバイル性がある点、ザハ・ハディドの「モバイル・アート・パビリオン」(現在は「アラブ世界研究所」の前庭に定着)と同じ性格をもつ。

ところがこの建物は、移動性をもつゆえに軽量材料の使用と同時に、コンサートホール並みの音響効果をも要求されるという矛盾をかかえている。つまり良い音響効果には、材料のマッスと重量が決定的な要因である。「パビリオン21」のデザイン・コンセプトは、この矛盾を解決することが要であった。

そこでコープ・ヒンメルブラウを率いるウルフD.プリックスは、図面に提示された当初の考察のように、建物の基本的なコンセプトを、一方でサウンド・シークエンスに合った空間変形を試み、他方ピラミッド形の造形群によって、音響の吸収・反射特性を開発した。それらを彼は“サウンドスケーピング”と呼んでいる。

建築に音楽を組み込むという“サウンドスケーピング”のアイディアは新しいものではない。ランドスケープに類似したこの言葉は、“ゲシュタルト”(形態)を包含する。1940年代の“サウンドスケーピング”は、作曲法を意味していた。建築においては、ル・コルビュジエとヤニス・クセナキスが、「フィリップス館」と、“アンデュレーション”と呼ばれる「ラ・トゥーレット修道院」の開口部に、“サウンドスケーピング”の3次元的解釈を与えた。

プリックスは“サウンドスケーピング”を達成するそのために3つの段階を踏んだ。第1には広場とストリート間のシールド効果を実現させる。第2に建物の形態は、騒音をそらせるようなジオメトリーにする。第3に建物のサーフェスは、騒音を反射し・吸収する仕上げにする。

音楽を空間形態にインテグレートとしていく第1ステップとして、ジミー・ヘンドリクスの曲“パープル・ヘイズ”と、モーツァルトのパッセージ“ドン・ジョバンニ”が転写された。これらの周波数断面形の分析と、コンピュータによる3Dモデルのコンビネーションを通して、パラメトリック・スクリプトによって、超先鋭的なピラミッド形の”スパイク・フォルム“が形成された。

インテリア空間の良質な音響的効果をあげるために、内壁と天井面は、吸音効果のあるパンチング・パネルと、反響効果のある滑らかなパネルによるサンドイッチ・パネルが用いられた。パビリオンの床面は、ステージも含めて反響パネルが使用された。

建物はエントランスの右手にバーがあり、内部の劇場と外部の鋭角的ピラミッド群の間に位置し、外部からの騒音をシャットアウトしている。シャープに屹立するピラミッド群は内側にガラス、外側をパンチング・メタルで覆われ、昼間はメタリックに輝き、夜間は半透明となる。

「パビリオン21」はその形態的特性によって、移動していくそれぞれの都市におけるアーバンスケープを改善していくミッションももっている。

 
図面
 
建築家
   

■略歴

コープ・ヒンメルブラウ略歴
1968年 ウルフD.プリックス、ヘルムート・シュヴィツィンスキー、マイケル・ホルツァー
によって設立。
1988年 ロサンゼルス・オフィス開設。MoMAでフィリップ・ジョンソンのキュレーション
“デコンストラクティヴィスト建築展”に参加。
1988年 ウィーン市建築賞
1989,90,91年 PA(プログレッシブ・アーキテクチュア)賞
1992年 エーリヒ・シェリング建築賞
1992年 ポンピドー・センターで個展「空を構築する」を開催
1999年 ドイツ建築賞
2001年 ヨーロッパ・スティール・デザイン賞
2005年 アメリカ建築賞
2008年 RIBAジェンクス賞
   
ウルフ D.プリックス略歴
1942年 オーストリア、ウィーン生まれ。ウィーン工科大学、AAスクール、
南カリフォルニア建築大学で学ぶ
1968年 ヘルムート・シュヴィツィンスキー、マイケル・ホルツァーと共に
ウィーンでコープ・ヒンメルブラウ設立
1984年 AAスクール客員教授
1985 - 95年 サイアーク准教授
1990年 ハーヴァード大学客員教授
1993年 ウィーン応用芸術大学教授
2003年 ウィーン応用芸術大学建築学部長
2009年 オーストリア芸術科学勲章


■代表作

主な作品に、ライス・バー、レッド・エンジェル、バウマン・スタジオ、ISOホーディング社、ルーフトップ・リモデリング、ブティック・コノシャンテ、 フロニンゲン美術館、ヴァグラマーストラッセ集合住宅、UFAシネマ・センター、リーマイズ集合住宅、ガゾメーター、スイスEXPO‘02、ミュンヘン美術館、アクロン美術館、BMWヴェルト、パビリオン21ミニ・オペラ・スペース、ハイスクール#9、マルチン・ルーサー・キング教会など多数。

 

Materials: Courtesy of Coop Himmelblau