Ordos Museum (Mongolia, China)
オルドス美術館(中国、蒙古)
Design : MAD Architects
設計:MADアーキテクツ
モンゴルに出現したタイムレスな物体
2012年に北京建築ツアーを挙行した際、事務所訪問としてMADの事務所を訪れた。北京中心部の一角にあるレンガ造りの古い倉庫のような造りは、いかにもハイパー・アヴァンギャルドな若手建築家集団のアトリエとしては打って付けの空間だった。

創設メンバーのマー・ヤンソンは、1975年生まれの今年(2012)37歳。まだ作品数は多くないが、現在カナダで進行中の「アブソリュート・タワーズ」や、大連で進行中の「中国木造彫刻美術館」など、オーガニックな先進性を秘めた作風は、師ザハ・ハディドの影響も少なくない。

MADの新作「オルドス美術館」は、モンゴル内奥の都市オルドスに完成したアートと都市の美術館だ。6年前「オルドス美術館」の計画がスタートした当時、敷地はモンゴル砂漠むき出しの野性そのものであった。そんな状況の中、オルドス市当局は、未だ見果てぬ未来のメトロポリスのために、MADに美術館の設計を依頼したのだ。

したがって「オルドス美術館」の目的は、宿命的なまでに厳しいものであった。ローカルな文化が、未来都市のヴィジョンに遭遇した時に噴出するであろう多くの矛盾。そうした数多くの齟齬や不整合性を、ナビゲートしていくのが美術館の使命であった。

バックミンスター・フラーのジオディシック・ドームに想を得た「オルドス美術館」は、高さ40m、延床面積41,000㎡の巨大さ。この地方の文化的歴史を守り、外部の新しい合理的な新都市に対峙する。オーガニックにうねるファサードでカプセル化された美術館は、なだらかな丘の頂上に座している。建物の周囲は傾斜のある広場となっており、この地方の家族や子供たちの集いの場となっている。

建物は現代中国文明における共通の論争に巻き込まれたアーバン・センターだ。それは人民が長く培ってきた伝統と、未来に対する彼らの夢との相克であった。MADアーキテクツは、アーバン・ランドスケープの開発を要求されると同時に、マイノリティの文化や未来のポテンシャルの存続性に留意することが求められた。

MADは中国の伝統や未来とは別の、タイムレスな発展を育むことができるミステリアスな抽象的フォルムを具現化した。建物のスキンはこの地方特有の頻繁な砂嵐のある厳しい冬からインテリア空間を守るメタル・コンテイナーとして機能する一方、さらに比喩的に言えば、この層状の外壁は、同市の貴重な文化や歴史を、未知な都市発展から防御するシールドの役目となる。

内部は外部とは強烈なコントラストをもつ印象を与える。それはスカイライトからの自然光に満ちた、巨大でモニュメンタルな洞窟。この大空間はキャニヨン(峡谷)にリンクし、それはギャラリーと展示ホールの間にヴォイド・スペースを生み出し、最上部は輝くばかりにイルミネートされている。

これらのプリミティブな空間の基壇部分に沿って、キャニヨンを渡るスカイ・ブリッジが巡らされている。それはゴビ砂漠ランドスケープの過去と未来のインターセクションを想起させる。ヴィジターはこれらのスカイ・ブリッジを往来し、絵のように美しい見晴らしのよい地点から、彼らの旅を省るのだ。

「オルドス美術館」の完成は、同市の急速な発展を受けとめ、省察する場所を市民に与えた。人々は自然と人間の発展双方の出会いの場である、「オルドス美術館」の自然的ランドスケープの中で、組織的な出会いを楽しめるのだ。

 

 
図面
 
建築家
   


■略歴

マー・ヤンソン
1975年 中国、北京生まれ。中国土木&建築インスティテュート卒業
2001年 AIA先端建築研究スカラシップを得てイエール大学入学
2002年 イエール大学卒業
2004年 MADアーキテクツを北京に設立
2006年 ニューヨークのアーキテクチュア・リーグよりヤング・アーキテクツ賞
イエール大学よりサミュエルJ.フォゲルソン賞
2008年 『ICON』誌より20人の最も影響力のある建築家に選出される
2010年 中国初のRIBA名誉会員に選ばれる


■代表作

主な作品に、フートン・バブル 32、ヴェルツ・パビリオン、メドウ・クラブハウス、ホンルオ・クラブハウス、オルドス美術館、アブソリュート・タワーズ(工事中)、シノスティール・インターナショナル・プラザ(工事中)、フェイク・ヒルズ(工事中)、中国木造彫刻美術館(工事中)、コンラッド・ホテル北京(工事中)など。

 

Materials : Courtesy of MAD Architects