Copenhagen Concert Hall (Copenhagen, Denmark)
コペンハーゲン・コンサートホール(デンマーク、コペンハーゲン)
Design : Jean Nouvel
設計:ジャン・ヌーヴェル
演奏者の像が浮かぶデマテリアライズド・ウォール
デンマークはコペンハーゲン旧市街の外側に完成した「コペンハーゲン・コンサートホール」。デンマーク・ラジオが所有する国立デンマーク・シンフォニー・オーケストラの本拠地である建物は、“カメレオン建築”という異名をとっている。

市中心部からの高架式のメトロで近づくと、建物は何やら建設現場でよく使用されるブルーのネットで覆われた4角形のボックスのように見える。だが日が落ちて夜になると­­、この外壁スキンに、内部で演奏しているミュージシャンの姿が投映され、外部の人はその夜の出し物を外部から理解することができるのだ。

ジャン・ヌーヴェルが考案したこの変化するカメレオンのようなシステムは、建物全体をスティール製のフィーレンデール・フレームで囲み、その上をPVCコーティングしたグラスファイバーで覆っている。夜間このスキンに投映すると、建物はデマテリアライズ(非物質化)された希薄なオブジェのごとき幻想な存在になる。

ヌーヴェルが古くは「無限の塔」(未完)や、近くは「カルティエ財団」などで用いてきたデマテリアライゼイションのコンセプトは、いずれも建物ガラス面への空の映し込によるものであったが、「コペンハーゲン」では映像の投映によるファンタスティックなものとなった。

建物の内部構成においても、ジャン・ヌーヴェルは大胆だ。まずメインとなるグランド・ホールを4階より上部に上げ、それ以外の大・中・小の3ホールを地下から立ち上げている。中・小ホールの上部、すなわち2階をロビーにすることで、グランド・ホールの傾斜した底部が天井となっている。

ヌーヴェルはこの傾斜天井面を、石膏ボード仕上げとし、そこにビデオで多色パターンや映像を投影させる。その結果、グランド・ホール下のロビー空間は、きらめくマルチメディア・ナイトクラブのように華やかな様相を帯びてくる。ヌーヴェルらしい映像表現だ。

建物全体は95m×50m×44m(高さ)の直方体形フレームで、その中に広さ55,000㎡の建物本体があり、巨大なハマグリのような1809席のコンサートホールが、空中に浮いている印象だ。このホールはハンス・シャウロンの「ベルリン・フィルハーモニー・ホール」や、フランク・ゲーリィの「ウォルト・ディズニー・コンサートホール」と同じヴィ二ヤード・スタイルを踏襲している。

ヌーヴェルは音響では、「ディズニー」を担当した日本の永田穂氏の弟子であるトヨダ・ヤスヒサ氏を起用。照明では常にヌーヴェルと協働しているヤン・ケルサレと組んだ。さらに外壁の垂直植物壁は、「ケ・ブランリー美術館」でそれをデザインしたパトリック・ブランを採用し、他分野のプロフェッショナルと巧みな協働をしている。

ヌーヴェルが、ラファエル・モネオ、ラファエル・ヴィニョリ、スノヘッタという強豪を敗ってコンペに勝利したのは、このコンサートホールのデザインの秀逸さもさることながら、「ルッェルン文化会議センター」「ガスリー・シアター」「オペラ座改修」、そして進行中の「パリ・シンフォニー・ホール」などの実績が評価されたからだ。

コペンハーゲン市によって開発されたこのエリアは、いまだ荒涼とした土地に、新しい住宅、オフィス、学校の開発が展開しつつある。コペンハーゲンのダウンタウンからオルステッドへのゲートウェイとして、このエリア発展の起爆剤である「コペンハーゲン・コンサートホール」の牽引力は十分発揮されていると言える。

 
図面
 
建築家
   


©Gaston Bergeret

■略歴

ジャン・ヌーヴェル
1945年8月12日 フランス、フュメル生まれ
1967-70年 クロード・パランとポール・ヴィリリオの助手
1970年 事務所設立
1972年 エコール・デ・ボザール卒業
1983年 芸術文化功労賞、フランス建築アカデミー銀メダル
1987年 フランス建築グランプリ、アガ・カーン賞、エケール・ダルジャン賞
1991年 フランス建築研究所副所長
1993年 AIA名誉会員
1995年 RIBA名誉会員
1998年 フランス建築アカデミー・ゴールドメダル
2000年 ヴェニス・ビエンナーレ金獅子賞
2001年 RIBAゴールドメダル、高松宮殿下記念世界文化賞
2002年 レジョン・ドヌール勲章
2006年 アーノルド・ブルンナー記念建築賞
2008年 プリツカー賞


■代表作

主な作品に、ネモージュス集合住宅、アラブ世界研究所、リヨン・オペラハウス改修、カルティエ財団、ギャラリー・ラファイエット、ホテル・サン・ジェイムズ、ルツェルン文化会議センター、ザ・ホテル、電通本社ビル、ガスリー・シアター、レイナ・ソフィア・アート・センター増築、アグバール・タワー、ケ・ブランリー美術館、マーサー40集合住宅、コペンハーゲン・シンフォニー・ホール、イレブンス・アヴェニュー100番地集合住宅など多数。

 

Materials : Courtesy of Ateliers Jean Nouvel