国立21世紀美術館(イタリア、ローマ)
Design : Zaha Hadid
設計:ザハ・ハディド 空中スロープや階段が飛び交うピラネージ的空間 |
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近年のザハ・ハディドによる八面六臂・縦横無尽の活躍振りは、建築家としては古今未曾有といえるのではないだろうか。そんな彼女のデザイン活動のひとつの頂点といえる作品が、ここに紹介する「国立21世紀美術館(MAXXI)」だ。 1999年にレム・コールハース、伊東豊雄、スティーヴン・ホール、ジャン・ヌーヴェル、妹島和世らを破って勝利したコンペは、所員がまだ30人足らずの事務所であった。この10年間に所員は10倍以上に増え、作品も急速に増えた。「国立21世紀美術館」は、そのようなザハ事務所の急成長期間を覆いつくす10年という長い歳月を費やして完成した作品だ。 長い時間をかけた「美術館」は、ローマのフラミニオ地区というイタリア軍のバラック(兵舎)が密集する地区のど真中にある。近隣には、ピェール・ルイジ・ネルヴィの「スポーツ・パレス」やレンゾ・ピアノの「ミュージック・オーディトリアム・パーク」といった著名建築もある。 敷地の南北両サイドは道路が走り、東西側は兵舎が近接している。ザハの配置計画は、北側の道路から見て建物をL字形に配し、L字の直角部分を隅切りとしてカーブをもたせている。つまり緩やかなカーブを描くL字形プランの建物だ。 外観の特徴は、南東側エントランス・プラザの空中高く、3階の展示ギャラリーの先端部がキャンティレバーで突出していることだ。この下をくぐってエントランスに近づくと、建物本体から遊離したRC+ガラス張りの空中ブリッジが飛んで庇のようなピロティを形成。このプラザからエントランスへと至る正面側のデザインが、来館者に与える印象は秀逸だ。 エントランス・ホールはさらに驚愕の空間である。3層吹抜けで、天井面はストライプ状の全面トップライト。その大空間を黒色の空中ブリッジ、空中スロープ、階段が交錯するピラネージの『牢獄』的世界。それらすべてが流れるような流動表現となっている。 トップライトのストライプ状フィンはRCで、スティール+ガラスの天井面からサスペンションされており、舞い降りる自然光に力強さを与える。ギャラリーにおけるトップライトには、メタル・グリル、ブラインド、可変ルーバーが装備され光量をコントロールする。 延床面積21,000㎡の建物は、約半分の10,000㎡がギャラリー。長くうねるスロープ群がギャラリーへのアクセスとなっている。 建物は複雑な幾何学性から、簡単には理解し難い。それは正に徒歩でイタリアの都市を探索するようなもので、ここ「国立21世紀美術館」でも来館者は、枝分かれした複雑な空中回廊や階段を徘徊しさまようことになる。 当初美術館がもつ強いデザイン性が、展示作品を圧倒してしまうことが懸念された。だが連続的なギャラリー配置によって、異なるパースペクティブから作品鑑賞が可能というメリットがそれを上回った。 「ヴィトラ消防ステーション」から始まり、「BMWEセントラル・ビル」や「フェーノ科学センター」を通じて流体表現の頂点を極めた「国立21世紀美術館」は、古都ローマの停滞したアートと建築の世界に、激しい衝撃を与えた建築と言っても過言ではない。
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