Khan Shatyr Entertainment Center (Kazakhstan, Astana - 2010)
カーン・シャティアー娯楽センター(カザフスタン、アスタナ)
Design : Norman Foster
設計:ノーマン・フォスター
世界最高のテンシル・ストラクチュア

ソ連崩壊後に生まれた中央アジアの国々は、名前さえ定かに記憶できないほど多いのに、ましてやその位置を知っている人はほとんどいないのではないか。筆者にとってカザフスタン共和国はそのひとつだ。

首都アスタナは、カザフスタン政府主催の国際コンペで1等をとった日本人建築家、故黒川紀章氏の都市計画で開発が進行している。アスタナはカザフスタン中央部の北側に位置している同国第二の都市である。その首都に、イギリスのノーマン・フォスターがビックリするような建築をつくった。

「カーン・シャティアー娯楽センター」は、首都アスタナの北端に位置する高さ150mもある巨大円錐形の建築である。世界最高のテンシル・ストラクチュアである建物は、テントのようなケーブル・ネット構造であるところが、並の建築とは異なる所以である。

外装には、ヘルツォーク&ド・ムーロンの「鳥の巣」や「アリアンツ・アリーナ」、PTWアーキテクツの「北京国立水泳場」などでも使用されたETFE(熱可塑性フッソ樹脂)を用いている。厳しい気候条件に耐え得る評判のソフト・マテリアルだ。

このテンシル・ストラクチュアは、中心軸となる長い大黒柱的なコラムを立て、そこからスカート状にETFEを引張(テンシル)するもので、100,000㎡もの内部空間を創出している。楕円形平面の底部から立ち上がったテント状のフォルムは、アスタナのスカイラインにひときわ美しいシルエットを見せている。

しかし全体を支持する主構造はそう単純ではない複雑性をもっている。まず高さ150mのほぼ中ほどまでは、3本の立体トラスのスティール柱を立ち上げ集結させる。その上に、外部に突き出てシンボリックな形態を見せる巨大なコラムを立ち上げている。

ETFEのスキンは、集結部分から10数本のスティール・コラムを上広がりに立ち上げ、それに支持されたスティール・リングにワイヤー・ケーブルで接続されている。このリングの部分から排気できるシステムとなっている。

ETFEのスキンは3層構造になっており、厳しい気候から内部施設群をシェルターすると同時に、昼間の太陽光をインテリア空間に導入する手段でもある。冬期はETFEスキンの内側に沿って温風を放出させることで、結露の雫などが降らないよう配慮されている。

逆に夏期は、低い位置からクール・エアをジェット流で空間全体に渡って吹き出し、冷却する。さらに中央コラム上部のスティール・リング部分にある排気口を開放し、頂部から熱気を逃がす仕組みだ。

巨大ドーム空間は約6階建ての建物を内包しており、そこには都市的スケールの公園をはじめ、ウォーター・パーク、シネマ、レストラン、カフェ、および種々のイベントや展覧会に対応するフレキシブルな空間などのエンターテイメント施設が組み込まれている。各レベルには、うねるプランのテラスが構成されており、最上階にはウォーター・パークが設けられた。

冬は-35℃、夏は+35℃と厳しい気候条件下の同地で、冬期は建物内部で氷が張らないこと目指した建物は、コルビュジエの「チャンディガール議事堂」のトップライトのように、少し横に傾斜した佇まいが、アストナ市街の象徴的なアーバン・ランドマークになっている。

 
図面
 
建築家
   


©Andrew Ward

■ノーマン・フォスター略歴

1935年 イギリス、マンチェスター生まれ
1961年 マンチェスター大学を卒業し、米国イェール大学建築学部入学
1963年 リチャード・ロジャースとチーム4を設立
1967年 フォスター・アソシエイツを設立
1983年 RIBAゴールドメダル受賞
1994年 AIAゴールドメダル受賞
1998年 スターリング賞受賞
1999年 ロードの称号を受ける。プリツーカー賞受賞
2002年 高松の宮殿下記念世界文化賞受賞
2004年 スターリング賞受賞
2010年 RIBA国際賞


■代表作

主な作品に、香港上海銀行、リバーサイド・オフィス&アパートメント、スタンステッド空港ターミナル、サックラー・ギャラリー、センチュリー・タワー、テレコミュニケーションズ・タワー、カレ・ダール、ビルバオ地下鉄、ケンブリッジ大学法学部校舎、コメルツ銀行本社タワー、香港国際空港ターミナル・ビル、ドイツ連邦共和国国会議事堂、大英博物館グレート・コート、ロンドン市庁舎、スイス・リ本社ビル、ハースト・タワー、北京首都国際空港ターミナル3、ウインスピアー・オペラハウスなど多数

 

Materials : Courtesy of Courtesy of Foster + Partners