National Laboratory of Genomics (Bajio,Mexico/2010)
国立ゲノミックス研究所(メキシコ、バヒオ)
Design : TEN Arquitectos
設計:テン・アルキテクトス
断層トポグラフィに埋設された先端技術研究所

テン・アルキテクトスを率いるエンリケ・ノルテンは、メキシコ建築界の巨匠テオドロ・ゴンザレス・デ・レオンやリカルド・レゴレッタに続く世代の建築家だ。その彼が10数年前、先の2大巨匠に伍して「国立アート・センター」でシアターを設計していたのには驚いた。若きノルテンは、この頃から実力を発揮し始め、「テレヴィザ・ビル」「ホテル・ハビタ」など、話題の作品を生み出し、現代ラテン・アメリカ建築界の人気建築家となった。そんな彼の近作が「国立ゲノミックス研究所」である。

建物はメキシコの食料庫といわれるバヒオに位置する農業研究所の増築棟だ。「国立ゲノミックス研究所」は、何もない野原に深く断層ラインが走る敷地にあるため、形態を限定するメタファーを生じさせている。配置計画では、このラインに沿ってプログラムを2分し、一方側に研究所を、他方に管理棟やオーディトリアムを配している。さらに両者の間には、パブリック・エリアが長く延びている。この構築された断層ラインが、各種のプログラムを関連づける親しみやすい市民スペースを形成している。

3つの建物は、野原に掘り込まれたアーティフィシャル・トポグラフィ(人工地形)に納められている。この新しい大地によって、「国立ゲノミックス研究所」内の仕事の性格は明快になる。敷地に埋没した研究棟は、インテリアとエクステリア、あるいは研究室と野原といった内外空間の移動を定型化したテラス群によって表現されている。

ランドスケープに掘り込まれたヴォイド空間が、囲まれたパティオを形成し、建物に自然光を導入。埋設された研究棟は、研究と実験のためのインシュレートされた私的で隔離したスペースを提供している。対照的に管理棟とオーディトリアムは、技術性と社会性の存在を主張している。

エンリケ・ノルテンのデザイン的特徴は、東西に延びた断層ラインのトポグラフィを利用して、南側に一番大きな研究棟を東西に長く配し、北側に管理棟とオーディトリアムを離して配置したことだ。静かな環境を必要とする研究棟は地中に配し、同様にオーディトリアムも地中に埋め込まれている。

管理棟だけが、5階建ての高い形態を堂々と地上に露出している。しかも各階のマッスを互い違いに東西方向にずらし、1階毎にキャンティレバーで突出させている。活動的な管理棟の特徴を造形的に表現したデザインは斬新だ。さらに研究棟の3階部分が、地中の研究棟の上に矩形のガラス・ボックスで交差して乗っている。意表をつくこの形態は、キャンティレバーで突出してエントランスの庇となり、オーディトリアムのエントランス側と対峙する。

ノルテンはファザードの透明性と精巧さによって、ランドスケープを建物内に導入している。だが建物と周辺環境とのコントラストは、ゲノミックス研究におけるエンジニアリングと高度技術の役目が、互いに相入れないのに通底する。プロジェクト全体の大半がカムフラージュされた効果は、徐々に建物と敷地をインテグレートさせ、同時に内部活動に複雑な様相を加味している。


 
図面
 
建築家
   

■エンリケ・ノルテン略歴

1954年 メキシコ、メキシコ・シティ生まれ
1978年 イベロ・アメリカン大学建築学科卒業
1980年 コーネル大学でマスター修了
1986年 メキシコ・シティにテン・アルキテクトス開設
1998年~ ペンシルヴァニア大学ミラー・チェアー
1998年 ラテン・アメリカ初のミース・ファン・デル・ローエ賞受賞
2005年 レオナルド・ダ・ヴィンチ世界芸術賞受賞
2007年 スミソニアン協会レガシー賞受賞


■代表作

主な作品に、ハウスPR, ハウスLE, チョポ・ミュージアム改修、ハウスC, モダ・イン・カサ、プリンストン駐車場、エデュケア・スポーツ施設、エスパーニャ公園集合住宅、国立演劇学校、テレヴィザ・ビル、ホテル・ハビタなど多数。

 

Materials : Courtesy of TEN Arquitectos