San Giacomo Parish Complex(Perugia, Italy / 2009)
サンジャコモ教区コンプレックス(イタリア, ペルージャ)
Design : Massimiliano Fuksas Architetto
設計:マッシミリアーノ・フクサス・アルキテット
光に形態を与えるキャノン・リュミエール

イタリアのペルージャに完成したマッシミリアーノ・フクサスの「サンジャコモ教区コンプレックス」は、早い話が教会であり、その付属施設との2棟からなっている。敷地はペルージャのフォリーニョにある2,000㎡のフラットランド。近くにはフォリーニョ市のニュータウン構想で実現された北環状道路があり、近年開発された新興地区だ。

コンペに勝利したフクサス案は、教会機能をふたつに分け、メインとなる礼拝堂とそれ以外のレセプション・センター、聖具室、カノン(教典)・ハウスなどの機能を別棟として計画したものである。前者は30m×22.5m×25m(高さ)、後者は60m×12m×7m(高さ)とし、いずれも長方形プランのシンプルなボックスである。

フクサスと言えば周知のように、ローマからパリに進出して大躍進を遂げた建築家で、その造形力は大胆かつダイナミックな作品を生み出してきたことで知られている。ところがここ「サンジャコモ」では、シンプルな直方体がふたつ並列しているという至って平凡な佇まい。これはラジカルなデザインをもって鳴るフクサスとしてはどうしたことか。

だが礼拝堂に1歩入ると、そこには驚愕のシーンが待ち受けている。RC打放しのボックス空間の中に、なんとひと回り小さなコンクリート・ボックスが空中に浮遊しているではないか。ボックスの下部を取り去って、それを宙吊りにした感じだ。

一見すると、その宙吊りのコンクリート・ボックスの重量は相当なものだ。だからこそ強烈なヴィジュアル・インパクトを与えるのだ。フクサスは重量を考慮して、多孔性の気泡コンクリートを使用して重量を軽減している。この内側の宙吊りボックスの下に祭壇、身廊が納められており、オープンとなった外側ボックスとの間が側廊ということになる。

側廊を見上げると、上部にダニエル・リベスキンドの「ユダヤ博物館」の階段室にあるような傾斜した梁が数本斜めに飛んでいる。一見宙吊りボックスを支持する構造ビームと見えるのだが、それだけではない。このビーム群は中が空洞のシャフトになっており、外壁の不整形な開口部からここを通して身廊の宙吊り壁に光のフォルムを照射する。

コルビュジエが「ラ・トゥーレット修道院」で用いた“キャノン・リュミエール(光の大砲)”が、フクサスによって再現されている。しかも「ラ・トゥーレット」では“キャノン”を通過した光は着色されて拡散し祭壇を照らすが、ここではシャフトを抜けた光は形を付与されたフォルムとして内壁に投影される。

宙吊りの身廊はいわば“フライング・ネーヴ”(飛ぶ身廊)だし、美しい光の断片を内壁に照射するシャフトはキャノン・リュミエール。共にフクサスがこの礼拝堂に配備した強いヴィジュアル・インパクトにしばし酔えるのである。


 
図面
 
建築家
   

©Moreno Maggi

■マッシミリアーノ・フクサス略歴

1944年 イタリア、ローマ生まれ
1969年 ローマのラ・サピエンツァ大学建築学科卒業
1969-88年 アンナ・マリア・サッコーニと協働で事務所を開設。数々のプロジェクトを完成させ、
イタリアおよびフランスで知られるようなり、パリにもオフィスを開設
1989-93年 フランス・アカデミー会員
1999年 フランス建築グランプリ受賞
2000年 フランス文芸賞受賞
第7回ヴェニス・ビエンナーレ2000建築部門のディレクターを務める
2002年 アメリカ建築家協会名誉会員
2003年 ソフィア国際建築アカデミー名誉会員
2006年 RIBA名誉会員受賞
2007年 ヨーロッパ・ショッピング・センター賞受賞
2009年 ミラノ・トリエンナーレ金賞受賞
   

©Carlo Gavazzeni

■ドリアナ・フクサス略歴

ローマ生まれ

1979年 ローマのラ・サピエンツァ大学で近代・現代建築史学科を卒業。
さらに同大学建築学科へ進む。その後パリの建築専門学校(ESA)を卒業
1985年 マッシミリアーノ・フクサスと協働
1997年 フクサス・デザインを統括
2000年 第7回ヴェニス・ビエンナーレ2000建築部門のキュレーターを務める
2009年 ミラノ・トリエンナーレ金賞受賞


■代表作

主な作品に、スポーツ・コンプレックス+パーキング、グラフィッティ・ミュージアム、ミシェル・ド・モンテーニュ大学アート・ハウス、ウィーン・ツイン・タワーズ、ナルディーニ・リサーチ&マルチメディアセンター、ユーロパーク1、ユーロパーク2、ミラノ見本市会場、アルマーニ銀座、ストラスブール・ゼニス・コンサートホール、ペレス平和センター、アルマーニ4番街、ミッツァイル商業コンプレックス、サンジャコモ教区コンプレックスなど多数。

 

Materials : Courtesy of Massimiliano Fuksas Architetto