Pachacamac House(Lima, Peru / 2008)
パチャカマック・ハウス(ペルー, リマ)
Design : Luis Longhi
設計:ルイス・ロンギ
地中に潜むクリティカル・リージョナリズムの傑作

敷地となっているパチャカマックの丘は、南米はペルーのリマから南へ40㎞ほど下った海岸沿いにある。この丘は平地に半島のように突き出た形で、その先端部分を含む5,000㎡を敷地として選定している。

建物は哲学者夫妻が、リタイアした後に第2の人生を送るための住まいで、“トランジショナル・プレイス(過渡期的住みか)”と呼ばれている。ペルーの建築家ルイス・ロンギのコンセプトは、延床面積400㎡の住宅を丘に埋め込むことで、建築とランドスケープとの間に均衡のとれたダイアログを創出しようと意図したものである。

東西に長く南北に狭い丘の南斜面に、矩形の穴(開口部)が数ヵ所切り開かれている。さらに丘の先端部頂上には、ガラス・ボックスが突出している。サンルームのように光輝く透明なボックスは、手付かずの自然に対する建築的介入という人工的な行為を象徴するイコンだ。また斜面側ファサードは、有機体に埋め込まれた移植組織であるエイリアンのように見えるし、他方それ以外の部分はすべて丘の中に埋設されている。

建物のメイン・ボディは、丘の頂部地下に2層に渡って埋設されている。ほぼ東西に長いこの地中建築は、プランの中央部を軸線としての廊下が走っている。その南側に個室群が配され、各々の個室群から南側の傾斜外壁へ向けて、細長い通路のような開口部が延びている。それらがユニークな矩形の形状を見せている。

自然材とオーガニックな材料を使用した住宅は、RCと石積みの組合せだけでなく、木とガラスの組合せも用いられている。敷地のモルフォロジー(地形)に建物をインテグレートさせるテーマは、石造耐力壁や盛土によるルーフ・ストラクチュアや地中壁といったエコロジカルな装置によるものだが、現代の環境問題へのひとつの提案でもある。

シンプルなディテールは、この住宅デザインの背後に潜むブルータリスト的&コンテクスチュアリスト的哲学と同様、建物全体の性格を支配する強固な触知的特徴をあらわにしている。またシンプルでナチュラルな物理的外観と、複雑な内部の空間形態の関係は、特に実存主義哲学者であるオーナーの背景を考慮すると、地上における人間存在の永遠の問題を提起しているようだ。

インテリアとエクステリアの空間的連続性は、外観のみならず内部空間も、大きな岩から彫刻のごとく削り出されたような様相を呈している。既存のコンテクストに対して控えめな形態をもつ住宅の自然配置は、ケネス・フランプトンのクリティカル・リージョナリズム(批判的地域主義)の概念を想起させる。そういった解釈から、この住宅の段状テラスなどは、インカ、マヤ、アステカ文明の建築言語にも通底するといえよう。

 
図面
 
建築家
   

■ルイス・ロンギ略歴

1954年 ペルー生まれ
1969年 アンデスのフアンカヨの高校を卒業
1975-79年 リカルド・パルマ大学建築学科に学ぶ
1981-84年 ペンシルヴァニア大学美術学部(彫刻)
1991年 グルーエン・アソシエイツ勤務
1992年 ハーヴァード大学GSDで、建築&ランドスケープ・アーキテクチュアと
都市計画のコンピュータ・アニメーションを学ぶ
1993年 13年間の米国滞在を経てペルーへ帰国し、事務所を設立
2003年 ベスト・セノグラファーに選出され、
第10回国際セノグラフィ&劇場建築:プラハ・クアドレニアルに参加
2007年 ベスト・セノグラファーに選出され、
第11回国際セノグラフィ&劇場建築:プラハ・クアドレニアルに参加
2008年 ヴェニス建築ビエンナーレ・ペルー代表。
第11回パナマ建築会議ペルー代表


■代表作

主な作品に、パフィチ・ビーチ・ハウス、アルヴァレス・ハウス、パチャカマック・ハウス、レフェーヴル・ビーチ・ハウス、Mビーチ・ハウス、カストロ・ビーチ・ハウス、ペイスセッター・スティール、ベルトーニ・ハウス改修、マルコヴィッチ・ハウス改修、ロンギ・ハウス改修、ペディアトリカ、カトリック大学アート・ギャラリー、ドミルス・トラベル・サービスなど多数。

 

Materials : Courtesy of Longhi Architects