審査委員と受賞者の記念撮影

審査結果発表
審査委員長総評

今回のコンペのテーマ「これからの平屋」には、さまざまな意味が込められている。これからの住宅事情を考えれば、人口の減少や高齢化に対応してバリアフリーな住宅が求められることは間違いない。ならば平屋住宅がこれからの住宅にふさわしい形式だと考えるのは自然である。しかし他方で、今後は平屋の住宅が建ち並ぶ低密度な住宅地が一般化するとは考えにくい。しかも広い敷地に平屋住宅を建てることはよほど恵まれた特殊解であり一般性はない。今回のコンペがそのような安易な回答を求めているのでないことは少し突っ込んで考えてみれば理解出来るはずである、にもかかわらず広い敷地を想定し、快適な平屋住宅をデザインしようとする案が多かったことは残念だった。もちろん条件の良い中でテーマを追求する正攻法がいけないわけではない。その方針で優れた平屋の都市住宅を提案した入選作も見られたからである。とはいえ、あえて平屋をテーマに選んだ意図をじっくりと読み込まないと、発見的な案は生まれないだろう。

期待されたのは、今までとは異なる平屋住宅の建ち方である。何よりも再考して欲しかったのは敷地のあり方についてである。平屋は必ずしも地面の上に建つとは限らない。ビルの屋上や人工地盤は新しい地面と考えることができるのではないだろうか。かつてのメタボリストたちはそのような敷地を提案しているし、最近では実際にそのような形式の都市住宅も散見されるようになった。しかし応募案には、そのような敷地の読み替えはほとんど見られなかった。高齢者が住むことが予測される住宅であるにもかかわらず、駐車場を考慮している案が少なかったのも意外な結果である。

テーマの前提を批評的にとらえ読み替えることは、コンペにおいては重要な条件である。その点で今回は、意欲的な案は多く見られたが、批評的な案は少なかったことがやや悔やまれる。

■最優秀賞

「抜け道がつくる家」

伊藤 信舞 (芝浦工業大学)

審査委員長講評
1階(層)の中に複数のスラブを差し込み、さまざまな高さの動線と視線を生み出そうとした案である。差し込んだ複数のスラブによって、風や光が抜ける縦横の「煙突」を作り出している点がユニークである。天井高1.4m以下の空間は、階に参入しないという建築基準法の規定を逆手に取り、床レベルを微妙に変化させることによって、平屋を3層に見せている。この案のポイントは「階」と言う概念を換骨奪胎し、読み替えているところにある。機能的な問題点は多いが、平屋の可能性を拡大している点を評価したい。

■ユニバーサルホーム賞

「ひとつながりの家」

金谷 聡史 (ディンプル建築設計事務所)

審査委員長講評
都市住宅としての平屋の可能性を徹底的に追求した模範的な解答である。都市住宅で問題となるプライバシーの問題、他方で、内向的にならず街に対して住宅空間をどこまで開くかという課題、職住近接住宅という都市住宅の在り方に対する機能的な提案、光や風など自然エネルギーの採り入れ方、駐車場の問題、街並の景観に対する寄与など、さまざまな条件が過不足なく解決されている。今回のテーマに正面から取り組んだ、ユニバーサルホームのプロトタイプになり得る案である。

■クリナップ賞

「トリミングハウス」

板谷 優志 (Y-GSA(横浜国立大学院))

審査委員長講評
郊外都市に建つゆったりとした空間を備えた平屋住宅である。外部を緩やかに内部に取り込み、内部を外部に流出させることによって、アクティビティが緩やかで自然と人工の境界が曖昧な郊外の都市空間に対する住宅の在り方を提案している。言い換えれば、郊外都市の空間の一部を切り取ったような「閉じつつ開き、開きつつ閉じた(原広司)」のびのびとした住宅である。

■優秀賞

「Mini×4→FLATcollective
 ~高齢の4世帯が集う平屋の集合住宅~」

川田 浩史(UR都市機構)
藤森 俊行(SPIKE design studio)

審査委員長講評
郊外に建つミニ建売住宅を、一種の集合住宅として結びつけた新しいタイプの平屋住宅の集合である。かつての建売住宅購入者の高齢化と住宅の集合化を結びつけ、シェアハウスでもなく戸建住宅でもない、中間的な住宅の在り方を提案している点がきわめて現代的で問題提起的である。

「盛土の平屋」

渡辺 裕貴 (フリーランス)
岡田 拓也 (フリーランス)
山本 恒太 (フリーランス)

審査委員長講評
基礎工事の際に出る土をそのまま敷地内に盛土し、起伏のある敷地を構築して、その上に立てた平屋住宅である。高低差をつけた敷地面をそのまま室内に連続させ、床面のレベル差によって平屋の単調さに変化を与えている。平屋にとって決定的な条件である敷地の在り方を読み替えた提案である。

「“おひとりさま”住宅」

滝元 嘉浩 (大阪工業大学)

審査委員長講評
これから増えるであろう単身の高齢者のための平屋集合住宅の提案である。個々人のプライバシーを守りながら、ゆったりとした共有の土間によって都市に開かれている。一つ屋根の下に住む「ひとり者たちのシェアハウス」だが、通常の家族に対しても成立する一般的な平屋建住宅だと言えるだろう。

■特別賞

「手 ~ふれあう~」

篠田 千夏 (株式会社アラタ工業)
茂手木 琢也 (株式会社アラタ工業)
尾形 友也 (株式会社アラタ工業)


「これからの平屋」

木下 忠斎 (株式会社ユニバーサルホーム)
三木 弥生 (株式会社ユニバーサルホーム)


「SINGLE&DINKS ~FLAT HOUSE~」

江刺 綾乃 (株式会社ユニバーサルホーム)

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