第2回POLUS 学生・建築デザインコンペティション

審査員長

青木 淳青木淳建築計画事務所

POLUS主催、第2回デザインコンペティションのテーマは「時のかさなり」、数十年先の将来を視野に入れて、街並みを考えるという課題でした。第1回と比べ、対象敷地の図面が与えられるなど、単なるアイデアを超えたより具体性が必要になるコンペでしたが、447件もの応募作が集まったというだけでなく、内容の濃い提案が多く、審査員としては楽しい審査でした。

遠い先の将来は予測がつかない。それは日々のささやかな変化の結果なのであり、その変化を促進させる仕掛けを持つことが、結局は、将来に対応できる街なのではないか、と課題に対して批評的な回答を提出したのが、最優秀賞を獲得した「衣替えする住宅」です。変化の加速のきっかけとしてフォーカスを当てられているのが四季の変化。移り変わりゆく気候の変化に、重ね着という方法によって生活の変化が起きるという、その論理のシャープさは圧倒的でした。ただ、3次元空間としてのおもろしさにまで案が発展できていないのは惜しく、ぜひ、このアイデアをさらに発展していただきたい、と思います。

普通は閉じている蔵の、表と裏をひっくり返し、蔵の外に収納する。そこに「積もる」モノの歴史が街をつくっていく。この大変にきれいなイメージを木造で試みたのが、優秀賞の「つもる蔵詩」です。こうしてつくられる空間で、室内外の連続性の高いものにできるというのは「発見」だと思います。収納のリアリティがより突き詰められていれば、最優秀賞に相当したかもしれません。惜しかったです。

入選作中「ひとつにもなれる家」は、家という単位を超えて、敷地全体に亘る秩序をもつということの意義を検証した提案でした。その秩序として与えられた「ムラのあるグリッド」によって、家と家がつながり、そのつながりが家を逆投射するというイメージは、丁寧に構築されていたと思います。惜しむらくは、3次元空間としての検証が足りなかったことでしょう。

「5月のツバメは空を渡る」は、建具のリサイクルによる産業とコミュニティという、プログラム上の提案が大変におもしろかった。たとえば、空き家のリノベーションは、物理的な改修だけであったら自己満足に過ぎず、それを維持し、マワッていくための仕掛け、プログラム、主体抜きには考えられません。その意味で、この提案のもつ意味は大きい。残念ながら、そのプログラムと、提案の造形がかみ合わず、優秀賞以上を逃しました。(造形そのものは、十分に魅力的でしたが。)

街の変化をある方向に誘導する、いわば基準線として、幾何学秩序を提案したのが「ひとつにもなれる家」でしたが、物理的インフラを提案したのが「NEXT ROOF GARDEN」でした。その意味で、提案のアーチ状構築体はとても興味深いものでした。この構築体が「適切に」築かれることによって、街の変化は完全には予測できないものの、ある質を担保しつつ、変化と成長がありえる。それは2次元表現や想像のなかでは十分な説得力を持ちました。3次元的に検証できていれば、これも優秀賞以上だったと思います。

以上のように、今回の、少なくとも上位5案は、結果としては、順位をつけざるを得ませんでしたが、どれも興味深く優劣つけがたい内容だったと考えます。

審査員

今井 公太郎東京大学 生産技術研究所教授

第二回を迎えて、POLUSコンペの入選案の特長が徐々にはっきりしてきました。

まずはアイディアコンペとして、テーマに鮮やかに答えている提案であること、そして、日本に特有の木造住宅とそれがつくる街並みについて良く考えられ、リアリティを持った提案であることです。後者はPOLUSコンペ特有の評価軸でしょう。さらに、提案に伴う物語や背景、社会的な役割などについても熟慮されているかどうかという点が公開審査では問われます。

最優秀案の「衣替えする住宅」は今回のテーマに上手に答えていて、三次元の形態操作のリアリティに若干問題がありましたが、総合的にバランス良く考えられていました。優秀案の「つもる蔵詩」は個人の所有物の堆積が時のかさなりをつくるという物語がテーマに対してやや弱かったかもしれませんが、木造住宅の街並みについてスケール感などの形態は比較的リアルに提案されていて、丁寧に考えられている点が評価できます。他の案も上記の基準の何かが欠けているという意味で、全てを満足する案はなかったかもしれません。

しかし、昨年度からさらに一歩踏み込んだ提案が多かったのは、今回は具体的な敷地が指定された点に加えて、前回の結果を踏まえて、応募者の皆さんがよく研究されたからだと思いました。いささか過度な期待かもしれませんが、アイディアとリアリティをなんとか両立させるという、極めて難しいけれども、志の高い提案を次回も期待しております。

乾 久美子乾久美子建築設計事務所

「時のかさなり」は、今、多くの人が関心をもっているテーマだ。新しさのみに価値を置く風潮が大きく後退し、過去と未来とをつなぐネットワークの中に人やものを位置づけることに意識的になってきている。興味深いのはこれまでの歴史主義や地域主義との違いで、今回のコンペ案から見えてくるのは、「今、ここ」で起こることを「伝統」(のようなもの)へと昇華させたいという気分であった。優秀な案のほとんどは、「現在を伝統化するシステムの提案」とでも言える内容である。「衣替えする住宅」は、そうしたシステムが最もクリアに、そして自然に表現されていたという点で最優秀賞にふさわしいだろう。さて、時間の問題を考えるとき、未来をどこまで描くかは本当に難しいポイントだと思う。多くの提案が説明的に未来の姿を描いてしまっているのに対して、最優秀案は居心地や習慣を未来と共有することのみを主張している。それが逆に、い未来のひろがりや可能性を感じさせることがすばらしかった。「時のかさなり」を信じさせるような、あたりまえさを獲得していたからだろうか。なお、個人的には、伝統や風土へ直接アプローチするような愚直な提案がもう少し出てきてもいいのになという気はした。

前田 圭介UID

第2回目のPOLUS学生コンペのテーマは「時のかさなり」。

過去から現在までを鑑みながら新たな次世代の暮らしについて昨年同様、500近い多くの応募案に豊かな暮らしが描かれていました。

昨年との違いは具体的な敷地があったことです。それは学生にとっても審査する側にとっても限られた与条件をそれぞれが創造し、時のかさなりについて共有しながら考えられたことだと思います。

もうひとつ、2次審査では模型提出が可能となったことです。模型という具体的なボリュームやスケール感を提示することが仇?となるような案や模型を持ち込まず抽象的なイメージでプレゼンをする案など、最終審査では建築の面白さが垣間見えたような気がします。

特に最優秀賞の「衣替えする住宅」は木造の壁の層に着目し、重層させながらレイヤーを拡張させる興味深い提案でした。さらに衣替えという四季を通じ移ろっていく様を描いた場面がとても印象的でした。しかし、具体的に表現した模型からはその雰囲気が感じられず図面との齟齬が違う意味で印象的でもありましたが、作者の強い思いが最優秀に結び付いたのだと思います。

多様な現代から未来へ向けて学生たちが提案した「時のかさなり」は多くの可能性をもっており、今後更に考え続けていってほしいと願っております。

百瀬 修ポラスグループ

447組の提案は影という一瞬を捉えたものから100年を超える悠久の時を見据えたものまで447組それぞれの「時のかさなり」がありました。一次審査を通過しなかった提案もレベルが高く、評価軸をどこに置くかで全く違う結果になったかもしれません。

最優秀賞の「衣替えする住宅」は四季の移ろいという普遍的なものを繰り返し感じながら暮らすという単純明快なものでした。四季の暮らしのイメージパースが素晴らしく提案者の「時のかさなり」がうまく表現されていました。模型のプレゼンテーションでスタディとリアルの乖離が浮き彫りになる過程は興味深く、審査員の叱咤激励という展開となりましたが、審査員は提案のその先をイメージし共感したからこその選出だったと思います。

公開二次審査に臨んだ5組の明暗を分けたのは思考の深さと熱量。一次審査通過後の時間の使い方に大きく違いがあったのではないでしょうか。

応募された皆さんの今後の活躍を願うと共に、第3回目への応募お待ちしています。