世界の建築は今 No.125

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2016/03/01 16:00

Charleroi Police Headquarters (Charleroi, Belgium)

シャールロワ警察本部(ベルギー、シャールロワ)

Design: Jean Nouvel+MDW Architecture
設計:ジャン・ヌーヴェル+MDW アーキテクチュア


市庁舎の鐘楼と対話する警察タワー

「確かにひとつの敷地に警察本部とダンス・スタジオが同居するのは不思議であるし、また刺激的でもある。都市街区は変化し、都市は変貌する。われわれは変革の時代に生きている。シャールロワでは新しい警察の建物を建て、ダンス・スタジオを拡張した。こうした変革は街路からアクセスできる新しいアーバン・スペースを創造する機会や、自分たちが活気に満ちアクティブになる機会を与えてくれる。だからこそ中心部に大きなブラッセリーをつくり、敷地を利用する人々や近隣の人々が出会う場所をつくったのである」とジャン・ヌーヴェルは言う。

「シャールロワ警察本部」はブルー・タワーのビルに収容されている。それは警官隊のダーク・ブルー色を想起させる。ブルー・タワーは高過ぎないシティ・ランドマークとなっており、市庁舎の鐘楼とダイアローグを奏でている。また警察のサービスは常時全ての人にオープンとなっており開放的だ。

シャールロワ・ダンス・スタジオの増築部分に警察署のロビーをつくり込んだ。それは大きな赤いノマド的なテント構造で、ダンサーの動きの軽やかさをシンボライズしている。それに付随しパブリック・スペースから目につく巨大なテラスは、国際的に著名なダンス・スタジオのパフォーマンスを強調している。

新シャールロワ警察本部、シャールロワ・ダンス・スタジオ、ブラッセリー、パブリック・スクエアの予期せぬ組合せは、ベルギーのアッパー・シティにおける新しいアーバン・ポエトリーを生んでいる。敷地の際立った特徴として、19世紀にできた美観を損ねた騎兵隊のバラック群ある。その騎兵トレーニング用の円形馬場はシャールロワ・ダンス・スタジオ、ブリュッセル・ワロニー舞踏芸術センターが使用している。

ジャン・ヌーヴェルがコンペで勝利したプログラムには、古い騎兵隊バラックの改修、警察と騎兵隊バラックの合体、およびシャールロワ・ダンス・スタジオの増築であった。その後シャルルロワ美術館の展示スペースの設計が追加された。

2011年の国際コンペで勝利したアトリエ・ジャン・ヌーヴェル+MDW アーキテクチュア・プロジェクトは、パブリックで好感のもてる警察のイメージを創出しつつ、都市に対しては新しいアーバン・ランドマークの出現を心掛けた。

基本的には古い騎兵隊バラック2棟を維持しつつ改修し、自由に開放された垂直的なビルを生み出すことであった。建物はアッパー・シティのアーバン・ランドスケープに溶け込み、市庁舎の鐘楼とダイアローグを奏でる同市のスカイラインにおける新しいシンボルになっている。この垂直性によって、都市に広く開放されたパブリック・スクエアの存在を誇示している。

警察署には3つのビルがある。ふたつの古い ビルは保存され、リノベートされてロウ・エネルギー・ビルとなった。既存のスペースは大きくは改修されなかった。これらのゾーンの改修はそれゆえ、広々としたレイアウトもしくは高い天井のスペースをそのまま保存させている。

敷地の北側(D棟)と東側(E棟)には、典型的な地域の長いレンガ建築があり、部分的に警察オフィスが入っている。カフェテリア、イベント・エリア、および美術館の展示室は、地上階に保存された古くて広い納屋に位置している。

これらふたつのビルのリノベーションが、プログラム上の要求事項に十分でなかったので、第3の建物として75mのタワーが建てられた。RC造の上にブルーのレンガ・タイル張りとした建物は、警察の色であるブルーと同じである。このタワーは当局で決められたパッシブ・ソーラー・ビルの規格をパスしたサステイナブルな作品である。

唯一の入り口であるタワー・ロビーから、スタッフや訪問者は、3つの建物をつなぐ”リンク・トンネル”と呼ばれる建物を通って、異なる部門へ到達する。駐車場、留置場、ロジスティックス・センターへは敷地裏側にあるスピノワ通り側のスロープからアクセスする。タワー内のデザインはできうる限りフレキシブルになっており、必要に応じて変更できるし緩やかな改修も可能だ。各階は異なる警察部門での用途変更に合わせて簡単に変更できる。地下3階になっており、3層の地下駐車場、留置場、アーカイブおよび倉庫がある。

1階奥にはブリーフィング・ルームがあり、2階には会議や講演用のオーディトリアムがある。3階はテクニカル・サービス・フロア、ITサービス、危機管理センターなどがあり、昼夜管理されている警察署の心臓部だ。最高階には都市のパノラミックな景観を満喫できる重要な会議室が配されている。


[図 面]

 

[建築家]


©Gaston Bergeret

■ジャン・ヌーヴェル略歴
1945年8月12日 フランス、フュメル生まれ
1967-70年 クロード・パランとポール・ヴィリリオの助手
1970年 事務所設立
1972年 エコール・デ・ボザール卒業
1983年 芸術文化功労賞、フランス建築アカデミー銀メダル
1987年 フランス建築グランプリ、アガ・カーン賞、エケール・ダルジャン賞
1991年 フランス建築研究所副所長
1993年 AIA名誉会員
1995年 RIBA名誉会員
1998年 フランス建築アカデミー・ゴールドメダル
2000年 ヴェニス・ビエンナーレ金獅子賞
2001年 RIBAゴールドメダル、高松宮殿下記念世界文化賞
2002年 レジョン・ドヌール勲章ナイト
2006年 アーノルド・ブルンナー記念建築賞
2008年 プリツカー賞
2010年 レジョン・ドヌール勲章オフィサー
2011年 ヨーロッパ・ホテル・デザイン賞
2014年 世界高層ビル・ベスト賞

 
■代表作

主な代表作に、ネモージュス集合住宅、アラブ世界研究所、リヨン・オペラハウス改修、カルティエ財団、ギャラリー・ラファイエット、ホテル・サン・ジェイムズ、ルツェルン文化会議センター、ザ・ホテル、電通本社ビル、ガスリー・シアター、レイナ・ソフィア・アート・センター増築、アグバール・タワー、ケ・ブランリー美術館、マーサー40集合住宅、コペンハーゲン・シンフォニー・ホール、ニューヨーク53番街集合住宅、ソフィテル・ウィーン、ワン・ニュー・チェンジ、ワン・セントラル・パーク、シャールロワ警察本部など多数。

Photos and Material: Courtesy of Ateliers Jean Nouvel