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槇文彦氏グループが新国立競技場の今後の進め方に関する見解を発表



  • ※この仮設案は提案ではなくあくまでも仮定として考えた場合の案

全面的な見直しをすることになった2020年東京オリン ピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場について、槇文彦氏グループ (槇文彦、大野秀敏、中村勉、元倉真琴、山本圭介、古市徹雄)から、よりコンパクトな規模の競技場にすべきだ、という見解が発表された。

また、槇文彦氏グループとしてはこれまで通り、中立、公平、公正な立場で発言していくという姿勢を堅持して、今後とも新国立競技場問題に利害関係者として関与するつもりはないことを明言した。

 

新国立競技場の今後の進め方に関する見解

 一昨年来われわれが問題点を指摘してきた新国立競技場計画が、このたび見直しとなり白紙撤回されたことを心から歓迎したいと思います。
しかしながら、設計から施工に掛けられる時間は迫っており、それゆえに選択肢は狭められているだけでなく、短時間のうちに重要な決定を下さなければなりません。
見直し作業が、最善の結果を得て、国民と東京住民の皆がオリンピックの開催を心から祝福して迎えるためにも、これまで前案の廃案を主張して来たわれわれの立場から、今後の見直しにあたって、考慮されるべきことをここに示す次第です。

1. 施設規模について
廃案となった前案は約8万人の収容力をもつ計画であった。再検討では、オリンピック時の収容人数は最大約8万人としても、会期後は、旧国立競技場並みの5~6万人に縮小するべきである。この主張は、1)安全性、2)集客力、3)景観等、4)維持管理費、5)首都圏諸都市の機能分担の5つの観点からなされている。

1)安全性の観点
観客の安全のためには、災害時や緊急時に(例えば爆弾を仕掛けたという通報が入った場面を想像して頂きたい)、全観覧者を迅速に施設の周辺空地に避難誘導することが求められる。神宮の敷地は狭いので建物が大きくなると、それだけ空地が狭くなる。

2)集客力の観点
誇大な観客席を設けても、それを満席にできないスポーツ種目にとっては、盛り上がりに欠け、使い勝手が悪い。日本のスポーツ観戦市場に見合った規模にすべきである。例えば、ドイツやイギリスの様にサッカーで常時8万人集められるチームは日本にはない。

3)景観等の観点
東京都心にとって、皇居から代々木公園にかけて連続する緑地は、景観的にも、生態的にも、防災的にも貴重で重要な存在であり、これ以上の毀損は避けるべきである。当地では、風致地区の高さ規制の緩和を行っているが、新案作成においては、この緩和に関わらず、風致地区の主旨を理解してできる限り低い建物とすることが望まれる。また、極力建築面積を減少させることも新しいプログラムの目標とすべきである。

4)維持管理費の観点
過大な観客席はオリンピック後には適正な規模に合わせて縮小すべきである。また、東京オリンピックの会期が真夏であることから客席に冷房設備が不可欠であるが、これも過大な観客席とともに会期後は撤去すべきである。なぜなら、一般的に言って、建物は使っても使わなくても機能を維持するためには修繕・更新が必要であり、オフィスビルであれば50年で建設費用と同額程度の費用がかかることを念頭に置くべきである。

5)首都圏諸都市
横浜、調布、さいたまなどにはすでに大規模な運動競技場が整備されている。オリンピック後には、首都圏域の均衡ある発展のためにも、新国立競技場もふくめて、それぞれに適切な役割分担を図って活用すべきである。全ての「聖地」を千駄ヶ谷に一極集中すべきではない。

2. 新国立の中心的な機能
世界のスポーツ施設の潮流は、兼用(複合)施設ではなく、種目別専用施設を指向している。兼用(複合)施設は機能性において専用施設に劣るからである。国際的な陸上競技開催を目的とするのであれば補助トラックの確保を一体的に計画すべきであり、国際的な球技大会の開催を主体とするのであれば天然芝の育成を最優先として日照と通風を確保し、同時にピッチと観客席の接近性が必須である。どの競技を中心にすべきかを早急に決めなければならない。音楽興行上としての利用は、あくまでも運動施設の空きを埋める範囲での活用策として位置づけるべきであり、芝生の育成の妨げとなり工事費用と維持費用を増やすだけの可動屋根の設置などは控えるべきである。

3. 適切な工費と国民負担
過去の各都市の主会場の建設費からすれば、当初の建設設備予算である1300億円でも十分過ぎ、これを超える理由はどこにもない。
施設の維持管理費用を考えるときには、運営収支だけではなく修繕費用まで含めた全支出に対して、公共施設として適切な収入を得る収支計画を立案するべきである。初期投資や修繕費用を考慮しない収支計画は真の収支計画からはほど遠く、国民負担を増す原因となる。

4. 適切なプロジェクト遂行
建物の設計と建築を効率的に進め、オリンピック後にも印象深い建物として国民に記憶されるような建築を実現するためには、上記に記したような建物の主要目的や要求水準を設計発注時までに確定し、政府案として承認、公表しなければならない。また、設計者施工者の選定においては、過程と結果の透明性確保が重要なことは言うまでもない。

以上


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